楽器のこと あれこれ
【HOME】  

1.響板の厚さ・力木などについて

2.ジャックの爪のことなど・・・・

3.Tielkeの弦楽器

4.ケンタウロスが奏でていた音楽について

5.オリジナルのフレンチ・チェンバロ

6.ラウテンクラヴィーアのこと

1.響板の厚さ・力木などについて

以前、桐朋の学内コンサートで、楽器搬入の手伝いで行った際に頂いたプログラムと、簡単な楽器に関する解説の中に

バロック・ヴァイオリンの若松夏美先生がお書きになっていた短い文です
----------------------------------------------------------
「モーツァルト時代のヴァイオリン」
2つの音質
「人の声 Human voice」コンサート(ソロ)用の音色。表板の厚さが一定。
「銀の音色 Silvery」オーケストラ用の音色。表板の中心が厚く、外側に向かって薄くなる。
*しかしTartiniは「銀」の楽器を使っていた!
---------------------------------------------------------
私はこれを読んで、少なからず衝撃を受けました。
ヴァイオリンに限らず、弦楽器、鍵盤楽器すべてにおいて、響板の厚さ、成形、形状は、まさに楽器の善し悪しを決定する最大のトピックです。
プロの制作家に、響板の成形について訊ねても、あまり多くは教えてくれません。
「ここを若干・・・」とか
「ここをほんのちょっとね・・・」とか
「木の性(しょう)をみながら、適当に・・・」とかでは、アマチュアにはなかなか理解でるものではありません。

 


2.ジャックの爪のことなど・・・・

【鳥の羽】
かつては、一番使われたのが、鳥の羽(主翼)の根本部分です。
現在でも鳥の羽を使っているメーカー(制作家)は沢山います。
ワシの羽がいいらしいのですが、今は保護鳥に指定されているので使えません。
今では、ハシブト烏とかカモメが使われています。
ただし、鳥の生息地によって大きく差が出るので、一概にはいえませんが、フランス産カモメがいいらしいです。

(ある演奏家がフランスに行ったとき、あちらのカモメの羽を入手して、前述のS氏に試して貰ったら、すごく良かったということです)
整形が難しいです。一本の羽から、数個分しかとれないときもあります。
ある制作家が、近所の裏山で拾ってきたカラスの羽でも、削り方を工夫すれば十分使える、と言ってました。
【牛革】
今回のDolmetschの楽器に使ったモノです。
皮も歴史的には多く使われてきて、その、独特の音は他では得られない貴重なモノです。ただし摩耗が他の素材より早いのと

その製法(ヨーロッパでは古くから皮の処理方法がいろいろ試みられてきました)が難しいそうです。
今回、Marc Vogelで取り寄せた「皮の爪」は、独自の製法で、適度の堅さと「しなり」を持っています。
どんな処理をしてあるのか、すごく興味があります・・・・
【合成樹脂】
デュポン社が開発した工業用プラスチックで商品名は「デルリン」です。
これが一番多く使われていると思います。
耐摩耗性に優れ、とても長持ちします。ナイフでちょんちょんと削って、結構、簡単に整形できます。
国内では目白の「古典楽器センター」でも買えます。A4サイズくらいで500円ほどです。
工業材料屋さんで買うと驚くほど安いです。ただし大判シートなので、到底、一生かかっても使い切れないでしょう。
これらの材料はすべて、Marc Vogel(http://www.vogel-scheer.de/)で購入できます。

 

3.Tielkeの弦楽器

Joachim Tielkeというと、弓の制作者として有名で、いわゆる「オールド・ボウ」としての

高価な(ものすごく)弓、というイメージでしたが

「Joachim Tielke」で検索したら、このサイトが見つかりました。
美しい弦楽器類(Lute, Guiter, Violin, Baryton, etc)のとても美しい(本当に美しく、只々ため息が)写真が見られます。
http://www.tielke-hamburg.de/htm_english/instrumente.htm

 

 

4.ケンタウロスが奏でていた音楽について

ギリシャ神話には音楽の神が何人かいますが、楽器を作った神様はいないようなので、

人間が作った楽器(リラ、アウロス、プサルタリー、キターラ、シュリンクスなど)

を借りて来たか、取り上げたか(笑い)して、演奏したのでしょう。
音階(音律)については、当時、数学者のピタゴラスが考案した、ピタゴラス音律を使用していたのでしょう。
他に、ちょっと変わった音階がありますので紹介します。


「オリンポスの音階」と呼ばれる「ド・♭レ・ファ・ソ・♭ラ・ド」の音階です。

もし、なにか楽器をおもちでしたら、

この音階を弾いてみてください。独特の世界に浸れますよ。

ただし、当時の基本は純正律なので、現代の平均率とはかなり違った響きですが。
でも、この音階は管楽器では、あまりに不自然なので、リラなどで演奏したのでしょう。
楽器を持っているケンタウロスの絵には、ほかに、リラ(竪琴)、アウロス、シュリンクスなどがあります。
アウロスは、リードがついた複管楽器で、両手に一本ずつ持って吹きます。

おそらく3つ穴の楽器なので、ギリシャ時代の基本的な音階の

テトラコード(4つの音からなる音階)が演奏できたのでしょう。
横笛はおそらく6つ穴の楽器で、中世ルネサンスのフルートと同じ様な楽器でしょう。
いくら神様でも、指は5本ずつでしたでしょうから、こう考えるのが当然だと思います。
シュリンクスは現在パンフルートと呼ばれている楽器とほぼ同じです。この楽器は

作るのがとても簡単な楽器で、長さの異なった管を何本か束ねるだけですから、

音律も自由自在です。さきほどの不思議な「オリンポスの音階」でも、簡単至極です。
他には、片手で筒の様な楽器を縦に吹いている絵もありますが、今で言うケーナ式の楽器か、

あるいはリコーダー式のブロックを埋めた歌口を持った物でしょう。

一枚リードを持った縦吹きの楽器もあったようです。

ただし、片手で演奏するには、3つ穴でしょうから、テトラコードを基本としたのでしょう・・・・・
この記事をお読みになった方で、もっと大胆で面白い想像をお持ちでしたら、是非お知らせください。

なお、古代ギリシャの音楽のCDというと、「グレゴリオ・パニアグワ &アトリウム・ムジケー古楽合奏団 」ですね。

もし、入手できる様でしたら、是非お聞きになってみてください。
他には、かなり古いですが、「デイビッド・マンロウのロンドン古楽コンソート」なんかが

古代ギリシャのものを少しだけ演奏してます。

 

 

5.オリジナルのフレンチ・チェンバロ
この楽器は
A.M氏が十数年前、フランスで購入した

17世紀のオリジナルです。

現状ではとても演奏できる状態ではなかったので

楽器本体は堀栄蔵氏(2005年6月夭折)が大修理を行いました。

カブリオル・スタンドも、とても楽器を支えられる状態に

ありませんでしたので、私の工房で新規製作となりました。

楽器本体の修理も困難を極めたようでした。

装飾画は、数多くの楽器を手がけられた高倉さんの

担当となりましたが、これがまた大変な作業で

絵が二重に描かれていた(当時は珍しくなく

所有者が変わったりすると、古い絵の上に

また新たに描かせた)ので、A.M氏の希望で

表面の絵を洗い流して、原初に戻すことになったのです。

 

もちろんのこと、表面を洗ったからといって、元の絵が100%現れてくる訳ではないので、相当な作業だったようです。

スタンドは新規に作りましたので、ここの部分は、新たに描いたのです。

当時、堀さんに、「この楽器は、なんだかんだトータルで数千万するんだぞ」と言われていたんですが

楽器本体の修復後、うちの、鍵もかからない工房に1ヶ月くらい預かっていました。

今思うに、万が一、盗難とか事故にあったら、どうなっていたんでしょう

ぞっとします。楽器の歪みがすごかったので、ボトム合わせに手こずりました。

この楽器は修復後、数多くのレコーディング、コンサートで使われました。

今現在もコンサートで大活躍です

 

6.ラウテンクラヴィーアのこと


【ラウテンクラヴィーア 】国によって、こう呼ばれています。
ラウテンクラヴィーア(Lautenclavier),ラウテンベルク(Lautenwerck)
ラウテンクラヴサン(Lautenclavecin), テオルベンフリューゲル(Theorbenflu¨gel),
リュートハープシコード(Lute-harpsichord )と、こんな名前があります・・・
つまりはガット弦を張った、リュートのような音が出る(リュートの音とは大分違いますけど)
チェンバロの形をした(?)楽器と言えるでしょう。(・・・ちょっと苦しい説明ですが・・・)

このCDに収録されているリュートのための曲は、実はラウテンベルクのために作曲されたとも言われています。
また、これらの曲は、ギターでも、そして勿論リュートでも弾かれますが、いずれにしろ、大変な難曲でもあります。
まず、私が大好きな【BWV997 Partita C-miner】の前奏曲の冒頭部分です。

下の声部がCから始まり、一音ずつ下降し、上声部が小気味よく上がっていくところは
もうたまりません。チェンバロで弾いても十分楽しめます。
次の譜面は【BWV998 Prelude Fuga and Allegro EbMajor】の冒頭です。
バッハ特有のアルペジオの連続で、どんどん移調のしていく様子が、これまた心地よいです。

バッハの財産目録には、所有楽器としてリュートが含まれてはいるのですが
どうやらリュートは弾けなかった(弾かなかった?)らしく、理由としては
低音部の進行をよく見ていくと、リュートでは演奏不可能な部分がいくつか存在する
・・・ということらしいですが?
ラウテンベルクは、バッハが所有していたとか、これを製作していたメーカーが
いくつかあったとか、と言う記述は残っているのですが、現物は勿論のこと
図面もイラストも一切残っていない(発見されていない)のです。いわば幻の楽器なのです。
ゆえに、これに魅せられてしまった、世界でも何人かの製作家が、それぞれ、独自の発想と工夫で
なかには驚愕してしまうような楽器も作られています。
このCDで使用されている楽器は、演奏者Robert Hill氏のご兄弟で、楽器製作家のKeith Hill氏が作った楽器です。
CDの解説には残念ながら楽器の写真は載っていません。
この典雅な音を聴いていると、やはり「自分でも作ってみたい」という欲求が沸々と沸いてきます。

【HOME】へ戻ります